冴えない彼女の育てかた♭ #09「卒業式と超展開」知らぬ間に裏側で進行していたもう一つの物語。
クリエイターとしての性は抑えきれない。



このまま全てがマルッと上手く収まって大団円!などとは夢にも思っていなかったんだけど、それにしたって急転直下な急展開、もといサブタイに倣うのなら超展開。なるほど、今なら前々回で倫也に対して諭していた伊織の忠告も、今回描かれた紅坂朱音の動きを指した具体的なものだったことがよく分かる。本格的に介入してきた絶対的上位者がグチャグチャに掻き乱す。まさにラスボス的存在といったところか。
詩羽にしても英梨々にしても一個人としては倫也やサークルに対する思い入れがあって、それは紅坂朱音に対するものに勝っているのだろう。しかし同時に一クリエイターとしての霞詩子と柏木エリの性が、彼女が持ち込んだ圧倒的かつ魅力的な企画を拒否することを良しとしない。一個人としての感情をクリエイターとしての矜持を見せつけることで暴力的なまでに上塗りしてしまう。
でも面白いのは朱音の有無を言わせぬ暴力性の塊みたいな物言いが、クリエイターとしての二人を生かそうとするものになっている。詩羽曰くクリエイターは許された瞬間に成長を止めるとのことでしたが、倫也の詩羽や英梨々に対する優しさや気遣いが、個人としては嬉しいものかもしれないが、クリエイターとしての二人にとっては緩やかな死をもたらすものと同義。
逆に二人に対し作品の為に死ねとまで言い切った朱音の一切の無遠慮さこそが、クリエイターとしての二人の更なる成長を促し生かそうとしているのは、何とも皮肉めいている。このままならなさこそが神髄と言わんばかりの味わい深さ。心地よさとは程遠いものかも知れないが、本作が扱っている題材ならではという感じを否応なしに受けてしまうのだ。
もう一度柏木エリと組みたい。しかし扱い的には彼女のおまけ。そういう体で詩羽を煽り、柏木エリに対しては彼女の絵の完コピで以て揺さぶりにかかる。苦労に苦労を重ねて長い時間を掛けて倫也の一番になったはずの自分の絵を、あっさり再現されてしまった衝撃。クリエイターとしての二人の意地とプライドをこれでもかというくらいに揺さぶり砕き刺激する朱音のやり口。
同人サークルとプロの商業。個人とクリエイター。倫也と朱音の相反する立ち位置やスタンスを浮き彫りにしつつ、今まで凄いとされてきた霞詩羽や柏木エリよりも、ずっと高いところにいる紅坂朱音の絶対的強者としての存在感を刻みつけられる構成になっていたのかなと感じました。
ともあれ倫也からしたらあまりにも突然に訪れた不測の事態。作品を完成させ次回作に移行する前とはいえ、自身のサークルに所属するライターと絵描きを、サークル代表である自分に一言の断りもなく奪い取られた形だ。サークル代表として仲間として友人として。相手は遙か格上の天上人で当然一筋縄ではいかないだろうが、このまま黙って引き下がるわけにもいかないだろう。
どこまでもプロでビジネスライクな朱音を相手に、果たして倫也はどこまで食い下がれるのか。サークルの存続と活動の行方は。どのあたりを物語の落としどころとするのか。色々あった♭のお話も終盤戦に突入。更に心を抉られそうだが終着点がどこに落ち着くのか最後まで見守っていきたい。
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