異能バトルは日常系のなかで #12「『日常』ユージュアルデイズ」仲間と書いてライバルと認め合う関係。
文芸部メンバーの関係を示すのにこれ以上適切な言葉はないのかもしれない。




文芸部に襲撃した美玲会長もとい『F』の残党萩浦直江との異能バトル。異能が絡む本作だけに美玲本人の意思ではなく、洗脳・催眠系の異能で駒として利用されたと思っていたけど、実情は憑依型の異能でしたか。文芸部メンバーとは別の意味で反則的な異能を持つ彼女との交戦で、精霊戦争における文芸部の置かれた特殊な立ち位置も見えてきたように思う。
異能を得た文芸部の面々がこれまでと変わらぬ日常を謳歌出来ていたのは、早い段階で彼らが独自のルールを取り決め、それを遵守しているというのもあるだろう。その内部的な要因とは別に外的な要因として、異能を得た能力者の中でもとりわけチート級の異能を持つ者ばかりが文芸部に集まっていることにも言及された。何より文芸部に敵対し得る勢力に属する人間を、桐生一が影ながらに始末してきたことが一番大きかったのかもしれない。
様々な要因が入り乱れた上で文芸部の平穏が保たれていたわけで、そのバランスを突き崩す存在として投入された萩浦直江は色んな意味で適任だったのかなと。自分が属していたコミュニティは壊滅させられ後がなく、またやりようによっては文芸部のチートに対応できる異能を所持していたので。
チートに対応できるのはチートだけとは言えないかもしれないが、実際彼女の憑依と美玲の『強欲』の組み合わせはかなり凶悪な性能を秘めていた。
特に美玲の異能殺しの異能は、チート性能を誇る文芸部メンバーの異能を持ってしても対処が難しく、その状況下で唯一カウンターを喰らわせることが出来るのが、今まで無能扱いされていた寿来の異能というのがまた良い。第二段階に覚醒した彼の異能は、熱さはあるけど制御は出来ず自分自身をも傷つけるという何とも扱いにくい微妙な性能だったわけだが、しかしそれがまた寿来の性格を色濃く反映したものだったようにも映った。
異能を所持するに至った周囲の人物をかけがえのない仲間として認識し、彼女らの負担を半分背負っていた寿来の様子は、序盤から中盤に掛けて良く見受けられた。他者を害する危険のある第二段階の異能も、自傷する性能を併せ持つことで一方的に相手に痛みを与えるだけでなく、自分も痛みを与える者の責務として半分背負う。そういった彼の性質が表出したものなのかな、と事態が収束した後の彩弓と美玲の会話を聞いたときに思ったのです。
異能に対する寿来の考え方については、千冬との会話でも改めて語られた部分だけど、異能は誰かを傷つける力でもないし誰かを幸せにするものでもない。異能は最高に格好いい、ただそれだけでいい。これが寿来の第一段階の能力の根源で、彼にとっての真理なんだなとようやく理解出来た気がする。
第二段階は自分たちの他にも異能を所持する者がいると知った寿来が、今回のような事態が来ることを無意識化で感じ取り発現した副次的なもの。それにしたって相手を一方的にどうこうするような性質ではないところが安藤寿来という男の本質を示しているのだと。
最終回に至ってようやく異能に目覚めた者達に発言した能力が、ランダムで能力の性質が決まったのではなく、その者の根源的な部分や願望を反映したものなのかなと思い至りました。遅すぎるくらい遅いですね、はい。でもこれを認識したうえで最初から見直すとまた色々と違ったものが見えてきそうで面白そうだなと感じたところでもあるのです。



さてさて、異能バトルも盛り上がったけど寿来を巡る恋愛バトルの方も過熱していき、これからが本番と言ったところ。まぁ原作が終わっていない云々を抜きにしても決着が着くことはないと誰もが思っていただろう。そもそも争奪戦自体が始まったばかりですし。
しかし各ヒロインが寿来に対する明確な好意を持っていることをハッキリと自覚した上で口に出したのが印象的で、これは他の作品ではあまり見受けられない今作の良いところだと感じた。
特に灯代と鳩子のやり取りはこれまでの経緯を振り返ると物凄く感慨深い。一時は相手の言動に戸惑い振り回されることもあった。しかしそれを乗り越え互いに正面から向き合い、相手のことを自分が競い合うべき対等の存在と認め合う。
仲間と書いてライバルと読ませる特殊ルビの件が秀逸で、これは灯代と鳩子の二人のみならず今作のあらゆる要素を凝縮した単語ではないかと思ったのです。これを聞いた時に自分の中で色々なものがストンと収まったような気がした。
異能を巡る問題は解決してない部分もあるかもしれないが、そもそも問題なんて発生していないのかもしれない。既に異能は彼らを形作る一部であり、それも含めて彼らの日常なのだから。異能を巡る彼らの騒動はこれからも続いていくだろうが、願わくば彼らに幸多い未来があらんことを。良い終わり方だった!

異能を得た人間はどのような行動に走るのか。その力を私利私欲のために使ったり、謎の組織と戦ったりすることもあるのだろう。しかし異能を得たからと言って必ずしも非日常の生活が待ち受けているとは限らない。これまでと変わらぬ日常が続いたっていい。そんな世界があっても良いじゃないというのを体現したのが今作『異能バトルは日常系の中で』だったのではないかな。
1話を見た時の自分が感じた通り、異能を用いたガチバトルよりも異能を得た彼らの日常が中心に置かれていたのが凄く良かった。今作は異能を使って何かをすることよりも異能を得たこと自体に、また異能という厨二的な概念そのものにどのように向き合っていくかに重点が置かれていたように思う。
思春期の少年少女が抱くような感情を織り交ぜつつ、ガチバトル要素は殆どないのに他のどの作品よりも真剣に厨二や異能に向き合っていた作品という印象。当初の自分の期待値を遥かに飛び越えて楽しませてもらえました。出演されていた声優さんも楽しく熱演されている様子が伝わってきて作品世界に凄く惹き込まれました。
製作スタッフの皆様、お疲れ様でした!素晴らしい作品をありがとうございます。
非常に完成度の高い作品であったように思います。
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ちゃんとタイトル通り「日常」に回帰する、綺麗な最終回でしたね(^^)
工藤さんは出番の大半が憑依状態であまり目立てず終いでしたが、第2話以来くすぶっていた恋心をしっかり言葉にできたのは良かった♪
加熱する恋愛バトル、楽しくなりそうですね(^^)
異能の性質と本人の個性や内心との関係は考えると面白いですね。
ダークアンドダークが第二段階まで含めて安藤らしい能力だという点は、雪光さんの考察を読むまで意識していませんでした…
流石は安藤、超かっけー♪